知床旅情

知床旅情-カニ族の青春-     独好自然


京都駅の西口に着いたのは、未だ梅雨の明けやらぬ、どんより曇った蒸し暑い、昭和42年7月10日の夕方であった。
大学2回生の前期試験も終わり、夏休みを利用して、約1ヶ月の一人での北海道一周旅行に、出かける日である。

国鉄の北海道均一周遊券を使い、京都から日本海側を通って札幌に入り、北海道を一周した後、青森のねぶた祭りを見物し、青森から東京に出て、新幹線で京都に帰る計画である。

行きは大阪発札幌行きの寝台急行列車(日本海)を、帰りには青森から東京行き寝台特急列車(白鳥)、そして東京から京都へは新幹線(ひかり)を利用する。

いでたちは、ワンダーフォーゲル部員のような軽登山の服装で、横長のリュックを背負い、その当時、カニ族と呼ばれる格好である。
一人旅でもあるので、宿泊はすべてユースホステルを利用する。ユースホステルは、宿泊部屋が男女別々になっており、女性の一人旅でも、安心して泊まれる宿である。

面倒なことに食事の時間など、一日のスケジュールが規則として決められてるのだが、夕食後に、宿泊者同士が情報交換するミーティングの場があって、親睦を深め、旅をより充実させてくれるのが魅力なのである。 列車に乗り込んだのは、夜の11時頃だった。

4人部屋の乗客は一人だけのようで、電気は点いてなく、カーテンも閉まっていた。静かに荷物を置き、ベットに横になったが、なかなか、寝付けなかったので、静かに通路に出てみた。

次々と通り過ぎる家の明かりを、眺めているうちに、初めての長期一人旅が始まったんだ、と実感が湧いてきた。心細さよりも、それ以上にこれから始まることに期待を膨らませていた。

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